犬笛

 先週の「サンデー毎日」の表紙をみて「小渕優子?」と思った人は少なくないはずだ(実は菊川怜

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 西村寿行の『犬笛』という小説がある。元は『娘よ、涯なき地に我を誘え』という題名だったのだが、1978年の映画化に際して改題された。犬笛はゴールトン・ホイッスルといい、人間の耳には聞こえないが犬には聞こえる高周波音を発する、犬訓練用のものだ。その犬笛の音が聞こえる異常聴覚をもつ少女が殺人を目撃して、それが大企業ぐるみの殺人だったため娘が誘拐され、父親が犬笛を使って娘を探し回るという話だ。当時人気絶頂の竹下景子さんが助演で出ていて、企業側の女だったのに娘を逃がそうとして、男たちに輪姦された上、雪の中に埋められ、それを父親役の菅原文太が救い出すというシークエンスで、輪姦シーンこそなかったが、雪の上に下着姿の竹下さんが横たわる場面が有名で、私は原作も読み、宣伝のためのラジオドラマも聴き、おそらく初めて一人で映画館へ行った。
 だが、映画の出来はよくなかった。というか、原作自体、無理があったのだ。父親は、その企業関係の建物で、娘が監禁されているとみられるものに近づき、犬笛を吹く。娘も犬笛を持っていて、聞きつけて吹く。父親が連れている犬が吠えて、娘がいることが確認される、という手順で、要するに犬笛は確認の役割しか果たしていないのである。しかも娘はあちこち連れ回されるから、文太がその場所を突き止めなければ犬笛も何の役にもたたないのである。
 最後は、娘を乗せた船が南方洋上へ逃れ、文太は、三船敏郎が船長をする漁船(?)に便乗してそれを追うが、敵の船はフィリピン領海に入ってしまい、船長が、国際法というものはみだりに破れない、かなんか言うが、領海直前で海上保安庁の船が拿捕する。
 しかしそんな思いをしてまで娘を連れて逃げ回るくらいなら、娘を殺してしまった方がよほど早い。現に竹下景子を輪姦して雪の中に埋めたのは殺人未遂である。変な映画であった・・・。もっとも高校一年生としては、好きな竹下景子さんが輪姦されて雪の中に埋められているというだけで異様な興奮を覚えはしたが・・・。

(小谷野敦)