東条英機映画「プライド」

 1998年のものだからだいぶ古い話題であるが、私は昨年あたり初めてビデオで観た。公開当時、東条礼讃映画としてずいぶん叩かれたが、実際に観れば割に丁寧に作られていて、恣意的な捻じ曲げは感じられなかった。質も高いといえよう。むしろ、死去直前の北原白秋が、東条新総理礼讃の時局便乗的な詩を書いていたことも分かるし、なかんずく注目すべきは、天皇の戦争責任を回避するために罪をかぶってくれと言われて東条が身もだえして悔しがる場面である。城山三郎の『落日燃ゆ』も、天皇の責任論になるのを避けるため自分を弁護するための証言を拒否して絞首刑になった広田弘毅を描いている。これらは、東京裁判戦勝国の裁きという不当なものであったという主張とともに、そこでは天皇の責任が一貫して隠蔽されたということを物語っているのだから、「左翼」はそこに着目して『プライド』を評価したっていいのではないか、と思ったものであった。
                            (小谷野敦