「メイク・アップ」(1987)中央公論2015年12月

 一般向けの本を出す時、著者や編集者が、題名に凝ることがある。営業は
特にそうだ。だが、題名だけで本が売れるということは、まずない。珍奇な
題名をつければある程度は売れるが、中身が伴わないと、途中で止まる。
 だが逆に、もう少し題名を何とかできなかったのかという、そっけない題
名というのもある。中原俊監督「メイク・アップ」などその一つで、これは
文藝賞を受賞した若一光司の『夜を海に重ねて』が原作なのだが、そのまま
で良かったのではないか。
 一九八五年に製作されたが公開が八七年になったという。烏丸せつ子が、
大阪を中心として活動するストリッパーで、尾美としのりが、彼女について
歩いている知的障害のある青年という役どころである。一般に、ストリッパ
ーにこんな男がついていれば「ヒモ」ということになるのだが、知的障害ゆ
えか、烏丸と尾美に肉体関係はない。
 ストリップは、今や絶滅が危惧される芸能である。実際に「できる」商売
がこれだけ繁盛していれば、今や「見せる」のと写真を撮らせるだけになっ
てしまったストリップが危機に瀕するのも当然だが、老人を中心に根強いフ
ァンもいる。
 映画は、大阪の天神番筋六丁目、通称「天六」に今もあるナニワミュージ
ックから始まる。私も大阪時代に何度か行った劇場なので懐かしい。今は失
われた、あるいは失われつつあるストリップ小屋とその周辺の風景が撮影さ
れているのは、うれしい。
 「海に夜が重なる」というのは中に出てくる台詞である。特に筋があるわ
けではなく、烏丸があちこちの劇場を渡り歩き、尾美がついていって、博多
では尾美をからかおうとした別のストリッパーと烏丸が喧嘩になったりする
。ストリッパーはたいていこんな風に、十日ごとに別の劇場へ出て、地方回
りをするものだ。
 尾美が少しおかしくなって石並べを始め、烏丸が石を捨ててしまって尾美
が失踪する。ラストがちょっと甘いのが惜しいけれど、佳作と言っていいだ
ろう。ストリップ愛からもあげておく。