定義は難しい

 最近、「私小説は定義が難しい」という文言を二、三見た。しかしこれは錯覚である。いったい、「純文学」「SF小説」「通俗小説」「風俗小説」「推理小説」の、いずれも定義は難しい。いずれも、明らかにそれだ、というものはあるが、周辺的なものはみな、入れていいのかどうか迷う。『吾輩は猫である』はSFかファンタジーか、『遠い海から来たCOO』はSFか。村上龍の『半島を出よ』は野間文芸賞をとったから純文学か、あるいは近未来SFか、または通俗小説か。「伊豆の踊子」は私小説か、純文学か、ないしは通俗小説か。
 定義が難しくないジャンルなどないと言っても過言ではない。なのに、私小説だけ「定義が難しい」と繰り返すのは、要するに差別である。

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中川右介さんから、アルファベータ刊、山本吉之助『十七代目中村勘三郎の芸』をいただく。ラカンジジェクが出てくるのも、まあ今どき珍しくないか。著者は1957年生だが変名で、化学者だという。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/kabukindx.htm
 このへんぼうっと見ていたら、河竹登志夫先生が物理学者だとあったが、東大理学部物理学を出て早大演劇科に学士入学しただけで、別に物理学者ではない。
 「狭夜衣鴛鴦剣翅(さよごろもおしどりのつるぎば)」とあるのだが、これは「おしのつるぎば」。でないと五七調にならない。