天下の奇書大賞

 2012年の小谷野賞の該当作がいまだ見つからない。ない時は該当作なしにするが、代わりに「天下の奇書」大賞として、古い本で、かつ著者は40年前に死んでいるが、舟越康寿『寂寥 学究・その半生の愛』(文芸社、2003)に授与したい。梗概はアマゾンに書いておいたが、芥川賞受賞作などよりはるかに面白い。その面白さが、著作としての価値であるか、ないし、面白いという気持ちがあとあとまで続くか、それは保証しない。よくこんなものが一般書として刊行されていると感嘆するほかないのである。

寂寥―学究・その半生の愛

寂寥―学究・その半生の愛

                                                                          • -

黒古一夫の『辻井喬論』(2011)に、辻井は国家からの褒章を貰っていないが、芸術院賞だけ貰っているが、そのほかは辞退したのかどうか、天皇制についてどう考えているのか、などと書いてあるが、昨年あっさり文化功労者になっている。もっとも黒古は、辞退すると大江健三郎の時のように非難脅迫されるからどうか、と書いているが、辞退したことを公表しないよう頼むこともできることは、武田泰淳の藝術院会員辞退で分かっている。
 それに黒古は、東京都知事大阪府知事君が代を強制していると書いているが、都知事が強制したのは記憶にないがなあ。強制しようとしたのは米長だろう。 

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『グラフ黒四』を入手した。これは黒四ダム完成を記念して関西電力が出したグラフ版冊子で、写真多数、臼井吉見新田次郎串田孫一田中澄江岡本太郎らが文章を寄せている。中に川端康成と大佛二郎の「その威容を作家はこう見た」があるのだが、ダム湖の写真の下に、二人の短い文章が載っている。これは川端全集未収録である。短いから引用すると、

 黒部というと 実のところ ぼくなんかの来れるところではないと まったくあきらめていたのだが……
 ぼくも 日本人をもっとよく知るために 日本を自分の目でもう一度よく見たいと考えていた クロヨンの建設を見たことは ぼくにとって大発見だった