五木寛之の謎

佐藤浩市が主演した「青春の門」(1981)を観ていなかったので観てみたが、想像を絶するつまらなさだった。話はあらかた知っているし、古風なマッチョ趣味の映画で気色悪いことこの上ない。映画化が「自立篇」で止まってしまうというのも当然である。シリーズはまだ完結していないらしいし、完結しないだろうが、未だに読み継がれているのが不思議である。

 五木寛之といえば、私は2000年ころ、直木賞受賞作の「蒼ざめた馬を見よ」について、ソ連寄りの小説として非難したことがあるが、これに対してまったく反応がなかった。それで十数年たって、あれは「ドクトル・ジヴァゴ」が退屈だということが言いたかったんじゃないかと自分で反応してみたが、それにも反応がなかった。

 私が若いころ、駒尺喜美が『雑民の魂』という五木論を出していたが、だいたい五木寛之は、文藝評論の対象にならなすぎるのである。呉智英が『風の王国』について、妙に奥歯にものがはさまったような言い方で、いい!とか言っていたので読んでみたがあまりに退屈で途中で投げ出した。

 五木の妻の父親は石川県の大物なので、泉鏡花文学賞は五木が牛耳っているとかいうのだが、あるいは最近芸術院会員になったりしたのだが、そういう方面から批判する勢力すらないのは実に不思議である。批判してもむなしいからかもしれないが。