「肩させ裾させ」と「促織」

 コオロギのことを「ツヅレサセコオロギ」とも言い、これは秋になって鳴くのは、寒い冬に備えて衣服を織れと促して「肩させ裾させ綴れさせ」と鳴くからだと説明されている。
 しかしこれは、シナ発祥のことがらで、シナではコオロギを戦わせる「闘蟋」という賭けを伴う遊びが盛んで、瀬川千秋の『闘蟋 :中国のコオロギ文化』には、コオロギは「快織(カイジー)、快織(早く機を織って寒さに備えよ)」と鳴くのだと聞きなし、それでコオロギを「促織」と呼んで、後漢の「文選」にはすでにこの呼称があったというのだから、日本の文明以前からあった呼び名で、唐代の杜甫にも「促織」というコオロギを詠んだ詩があるという。それをいつ「肩させ裾させ」と日本流に翻訳したのかは知らないが、誰か調べた和漢比較文学者はいないのであろうか。