呉智英「バカに唾をかけろ」アマゾンレビュー

元左翼の坪内祐三擁護
星2つ、2022・3・20
 前に出た『衆愚社会日本』の続きで、『週刊ポスト』に連載されたもの。149-150ppに珍妙なことが書いてある。坪内祐三が死ぬ直前の文章で、悪いことが続くのは天皇霊が弱いからじゃないかと思っていたが、平成という元号が悪いんじゃないかというオカルト右翼なことを書いていて、呉智英が、天皇制は宗教的に考えるべきだとこれを肯定しているのだ。坪内とは親しかったみたいだが、だからといって。呉は前著とは違って本書では天皇制批判にも踏み込んでいるのだが、私らの間では天皇・皇族に人権がないことから天皇制を廃止すべきだということになっているのに、人権思想を批判する呉は、その議論に触れることさえなく、ただ元左翼根性から共産党の話ばかりしている。私には共産党なんてどうでもいいのだ。呉の理想は「哲人政治」だといい、堯舜の禅譲世襲への批判だと言うのだが、それなのに東アジアでは天皇も皇帝も世襲ばかりだったというのは、儒学が機能していなかったからじゃないか。私は人権思想は現在のところ優れた思想で、そこから問題が生じるにしてもその時々に考えればいいと思う。あと240pにべ平連の話が出てくるが、ベ平連ソ連から資金をもらっていたことをなんで書かないのか。「悪源太」の「悪」が強いという意味だというところで今東光の「悪太郎」を持ち出しているが、あれはホントの悪太郎ではないか。船越保武の「ダミアン神父像」を傑作だと言っているが、あれは文部省推薦的傑作でしかないんじゃないか。
 しかし参考になるところもなくはなかった。