「トレジャーハンタークミコ」(デヴィッド・ゼルナー)中央公論2018年2月

 先ごろ高齢で死去した米国の作家ウィリアム・ギャスは、ノースダコタ州
ファーゴの出身である。そのファーゴを舞台にしたコーエン兄弟の「ファー
ゴ」という映画がある。狂言誘拐事件を描いたものだが、さして面白くはな
い。その中に、奪った金の入った箱を雪の中に埋める場所がある。
 「トレジャーハンタークミコ」は、東京で猫と一緒にしがない暮らしをし
ている独身女が、この映画にとりつかれる話である。
 題名は何だか「カードキャプターさくら」をもじったみたいだが、このア
ニメとはだいぶ趣が異なる。主演は菊地凛子で、例によって年齢不詳である。
実際には三十三だが、二十九歳の、しょぼい会社員で、恋人もなく猫と暮ら
しており、彼女が「ファーゴ」にとりつかれて、ⅤHSのビデオで繰り返しこれ
を観ている。そのうち、金を入れた箱が現実にファーゴのその場所に埋めら
れているという妄想にとりつかれ、猫を置き去りにしてノースダコタへ旅立
つのである。夏ならどうということはないのだが冬だったから大変である。
猫は置き去りにするのだがその場面がせつない。
 英語も片言でしか話せないクミコは、いろいろな人の手助けでようやくファ
ーゴへたどりつく。途中で助けてくれた警官にキスして、警官が「自分は妻
もいるし……」とまごつくシーンもあるが、さえないお茶くみ女という設定
でも、実際は菊地凛子が美人であるため、みなが親切にしてくれるような気
がするというあたりがおかしい。持ち歩いていた『ファーゴ』のビデオが壊
れてしまったあとのシーンが怖い。
 実際、ファーゴのあたりで日本人女性の死体が見つかり、これは映画『フ
ァーゴ』の金の箱を探しに来たのだという都市伝説があり、それをもとに作
られたのだが、実際はこの女性は別の原因で死んだものらしい。
 最後は言わずにおくが、エンディングタイトルでは延々と子供の合唱みた
いな歌が流れ続けていて、それが妙に印象に残る映画だった。