古川健(たけし)の「治天の君」は、原武史の本を参考に大正天皇を描いた戯曲で、2013年初演、ハヤカワ演劇文庫に入っている。読んでみたが、言葉の間違いが多い。
まず明治天皇が「現人神」などと言うが、私の理解ではこの言葉は昭和になって言われるようになったもので、明治天皇が言ったかどうか。
最初のト書きから、天皇夫妻を「人民の頂点に立つ」などと書いているが、それでは総理大臣のことになってしまう。「臣民の上に立つ」の間違いだろう。
明治天皇が大正天皇に「皇太子殿下」などと呼び掛けているがこれはないだろう。
20p「詰め込み教育」などという言葉が出てくるが、これは1970年代に出てきた言葉であろう。
語り手として貞明皇后節子が語っているのだが、「だ・である」調で、これはですますにすべきだろう。その節子が息子を「裕仁」などと呼び捨てにしているがこれもないのでは。「迪宮」あたりではないか。
93p「大正ロマン」などという言葉が出てくるがこれも当時あった言葉ではなく、1980年代に出てきた言葉だ。
103p「前準備」準備は前にするものに決まっている。
原敬に「首相」などと呼び掛けているが、「総理」ではないのか。戦前は「首相」と呼び掛けたという用例があるならいいが。
107p「今なお陛下の魂魄は」これ大正天皇がまだ生きている時の話。
なんだか、樋口覚の三島賞をとった『三絃の誘惑』を思い出した。