「風と共に去りぬ」について

スティーブ・マックイーンといっても俳優ではなく、黒人の映画監督が撮った「それでも夜は明ける」という、実話に基づいた映画を観た。1840年代に、米国北部に住んでいた自由黒人が拉致されてルイジアナに奴隷として売られ、12年近く使役されたさまを描いたものだが、その奴隷への待遇があまりにひどく衝撃を受けた。「アンクル・トムの小屋」だってこんなことは描いてなかったし、そもそも南部での奴隷使役をこんな風に描いた映画自体私はほかに知らない。ぜひ観ておくべきだ。

 それではっとしたのが「風と共に去りぬ」で、あそこでは黒人奴隷との平和的な関係が描かれているが、あれは嘘だな、と思ったのである。私は『聖母のいない国』で「風と共に去りぬ」を扱っているが、多分そこのところは見通しが甘かった。まあ、岩波文庫新潮文庫で新訳が出ているし鴻巣の「謎解き」本も出ているくらいで日本では甘いのだが、私の著書は新版が出ることがあったらただし書きをつけなければならないだろう。現実の南部の奴隷使役はこんなものじゃなかった、という。

小谷野敦