私はよく、女の人から「そういうことは、思っても言わないのよ」と言われる。昔からである。しかしそのたびに「思っても」は余計ではないかという、言語上の疑問を感じていた。思っていないことは言わないからである。しかしよく考えてみたら、世間の人は、思ってもいないこと、つまり「心にもないこと」を言うのだと気づいた。
思えば私は、心にもないことを近ごろはちっとも言っていない。私がいちばん、心にもないことを言ったのは、大学院時代である。「平川先生、こないだの天皇陛下の追悼文は良かったですね」などと言っていたのである。
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『週刊現代』の「ナナ氏の書評」はいったいどうしてしまったのだ。今回は、綿矢りさの新刊を売るのに写真を使うなと言っていて、小説そのものは褒めている。前回もそうだが、説得力なし。「ナナ氏」じゃなくて「説得力奈氏」になっている。匿名書評時評なんてものは、世間で褒めているものを貶してこそではないか。これなら実名だって同じだ。