意地悪

 書評というのはつらい仕事である。仮に自分で本を選べるとしても、一ヶ月から三カ月のスパンでいい本を見つけ出すのはかなり困難で、普通に本を読んでいていい本だなと思っても十年くらい前の本だったりするし、ではそれが出た時に見つけられるかというとそれもけっこう難しい。新聞の書評委員会というのはどういうものか知らないが、そこへ行くと近刊がぞろぞろ机の上に積まれてあったりするのだろうか。

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小林秀雄賞は予想通り水村美苗である。この賞は岩井克人も、とうてい文藝評論とはいえない本でとっているから、夫婦受賞である。何か人脈がありそうだ。しかしなんだか刊行当時から、小林賞をとると噂されていたが…。
 内容にはもちろん異論があるが、水村はこれまで出した単著がすべて賞をとっている。四点で受賞率100%である。賞というのは、売れない人を励ますという意味もあるから、こういうのは何だか盗人に追い銭じゃないが、金持ちに献金しているみたいである。しかし世の中というのはそういう風にできているのだろう。

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ガラスの仮面』44巻が出た。どうやら本格的に再開したようで、このままラストまで突っ走ってくれるのか。朝日新聞の「土曜の手帖」がとりあげてから四半世紀、安達祐美主演で、原作に書かれていない、紫織さんが真澄を刺すという衝撃の展開まで見せたドラマが放送されてから十年である。あれのエンディングが好きだったんだよねえ。

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瀬地山角、子育てする男を演じるのはもうやめようよ、本当は子育てって想像を絶してつらいんだろう、本当は放り出してしまいたいくらいなんだろう。違うのか? チョドロウだって、男は子育てに向くようには育てられないって書いているじゃないか。むろん、楽しく子育てをしている男もいるが、君にはその才能はなかったのだよ。君が鬱病と言いつつあちこち講演に出向くのは、開高健が外国へ釣りに出かけていたのと似ているよ。開高は飛行機が離陸すると鬱から解放された、と谷沢永一は書いているぞ。フェミニストぶるのなんか、やめちゃえよ。もっと楽な社会学はあるよ。誰も君に、子育てする社会学者なんかもう期待してないんだよ。やめちゃえよ。楽になるぞー。

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北康利『九鬼と天心』(2008)は『男爵九鬼隆一』(2003)の増補版らしいが、ラングドン・ウォーナーによって京都と奈良は空襲を免れたと書いてある。この「ウォーナー伝説」は吉田守男『京都に原爆を投下せよ!』(1995、のち朝日文庫『日本の古都はなぜ空襲を免れたのか』で否定されており、定説になっているはずで、私も何度も吉田著に触れている。『白洲次郎』などの著書もある山本七平賞受賞のノンフィクション作家の眼から吉田の論が漏れたとは実に不思議なことである。それとも北に、吉田論を否定する根拠でもあるのだろうか。

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http://rakuhoku.blog87.fc2.com/blog-entry-343.html
この妙木忍って人は青土社から本を出すらしいのだが、
 「東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了見込」
 ってのは初めて見た。博士課程修了ってことは博士号取得ってことで、それが「見込」ってそれはどういうことなのか。論文審査は済んで教授会での承認を待っているということとしか思えないが、その時点で「見込」なんて公表する奴ぁ私は知らん。東大にも妙なのが増えてきたわい。
 (小谷野敦