子安宣邦が、書評集『昭和とは何であったか』で、角田房子の『閔妃暗殺』を批判していると「毎日新聞」の書評に書いてあったので、図書館へ見に行ったが、これが実にひどいものであった。『閔妃暗殺』(新潮文庫)は私も読んだ。この事件には、堀口大學の父・九萬一も関わっていて、のち大學は家の恥辱と言っている。角田はもちろん批判的に書いており、別に批判されるようなところはないはずである。
まず子安は、『閔妃暗殺』をなかなか読む気になれなかった。角田が、軍人伝を多く書いているからである、という。これはひどい「偏見」「先入観」であって、そう思ったからとてまともな学者が書くべきことではない。さてしかし『閔妃暗殺』を読んでみると、別段非難すべき点はないから、子安はとにかく、この軍人伝を書くようなやつの本だからケチをつけようと粗探しをして、角田が、「閔妃暗殺とはお家騒動のようなものだと思っていたが、調べたらそうではなかった」(大意)と書いたのを、お家騒動のようなものだと思っていたという点で非難する。
それからあと、韓国から見た閔妃暗殺がどうこう、これが日露戦争の発端だどうこう、という話が続いて、きわめつけの、暗殺事件は三浦梧楼ら軍人の独断であり、日本政府は関与していないという記述に眼をつけて、何やら回りくどい言い回しで角田を非難するのである。もう「バカ左翼」のお家藝とでも言おうか。バカ左翼のイデオロギー的裁断というのはよく眼にするが、ここまでひどいのは見たことがない。しかも無理をしているからか、それとも最近の子安はそうなのか、文章がやたら変である。
「毎日新聞」でこの本を書評して、この箇所に納得していたのは、富山多佳夫である。富山には、セクハラ疑惑のために成城大から明治大へ移ろうとしたのが頓挫して青学へ行ったという経緯があるが、むろんこの件とは関係ないし、真偽も確認していない。富山が異義があるなら言ってくるがよい。
私は角田の本では『甘粕大尉』と『ミチコ・タナカ』をほかに読んだが、子安はこの『甘粕大尉』まで、読みもせずに甘粕礼賛の本だとでも思っているらしい。因みにアマゾンで『閔妃暗殺』のレビューを見たら、韓国寄りの作り事だという厳しいレビューがいくつかあった。しかし子安はもちろん、自分で、どこがどう史実と違う、という検証をしたわけではないし、韓国人の崔なんとかいう学者の言うことを信じているだけで、どうしても軍人伝などを書くやつを悪く言いたいだけなのである。実に呆れた話である。
子安宣邦というのを、偉い学者だと思っている人がいるかもしれないが、なに、著書が多いだけの軽薄な評論家学者であって、私は岩波新書の『本居宣長』を読んで、その内容のスカスカなのに呆れました。ただ私の『バカのための読書術』で、「著者はいい学者なのだが」と書いたのは、その頃子安氏とやりとりがあったかしたためで、あれは半分くらいウソです。で、今回、もうこの人は完全にダメだな、と思いました。
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http://www.library.city.suginami.tokyo.jp/TOSHOW/html/128672245354218750/2020watashi.html
杉並区立図書館で、「2020年の私」という原稿を募集しているが、私はこういうことはすべきでないと思う。18歳まで、となっているが、たとえそうでも、何らかの難病で、2020年どころか、あと一年しか生きられない子供だっているのである。そういう子供がこういう企画を目にしたら、何と思うだろう。私が区長や図書館長なら、決してこんな企画はしない。
(小谷野敦)