平野啓一郎に嫉妬しない

 こないだ、若くして修士論文を本にした人をあげたが、何人か落としていた。西成彦が『個体化する欲望−ゴンブロヴィッチの導入』をエピステーメー叢書から出したのが1980年12月で、これも修士論文だろう。西は55年生まれだから25歳で、最年少ということになる。あと細川周平が『音楽の記号論』を出したのは81年1月だが、細川は55年2月生まれなので、やはり25歳になる。西の生まれ月がなぜか分からないが、細川は25歳11ヶ月なので、最年少はやはり西だろう。あと四方田さんは27歳で『リュミエールの閾』を出しているが、四方田さんの修論はスウィフトなので修論ではないが、若くして出した一人である。

 昨朝、平野啓一郎がトップモデルの春香と結婚したと知って、一瞬嫉妬しかけた。何しろ私は春香がモデルをしている『ヘアピンレースのニット』(日本ヴォーグ社、2003)なんて本も持っているのだ。そういえば渡辺千萬子さんも平野と親しかったみたいだから、披露宴行かれたのかな。宿敵・佐藤亜紀吉川英治新人賞を取ったし、脇からあれこれ言っている私らは、漁夫の利の逆で、何て言うのかな。
 もっとも春香って愛知県立大学卒で、なんだか最近初めて歌舞伎を観たとかいう、あまり教養のないお方らしいので、さして嫉妬する気にならない。(書いていて実にどうでもいいことのような気がしてきた)
 (小谷野敦