銀座口八丁手八丁(小説)

 武田泰淳の短篇に「未来の淫女」というのがあることは、知る人ぞ知るところだ。これは全集には収録されておらず、ために単行本『未来の淫女』は古書で高値がついているのだが、実は古い文庫版『異形の者』に続編とともに収録されており、私はこれを入手して読んだ。これは、泰淳がのちの夫人である鈴木百合子と知り合った頃の話で、百合子が、大正時代の鈴木弁蔵という男の孫だと知って異常な興味を持つ話だ。鈴木弁蔵は悪辣な商人で、ために二人の男に惨殺され、「鈴弁事件」として世間を騒がせた。しかし、百合子は鈴弁の実の孫ではなく、婿養子に入った男が、妻の死後再婚してできた、義理の孫でしかなかった。委細は村松友視『百合子さんは何色』に詳しい。