2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「野菊の墓」(澤井信一郎)中央公論2016年5月

森鴎外の「舞姫」は、帰国途中の船の中での回想で、村上春樹の『ノルウェイの森』は、十八年後の飛行機の中での回想で始まる。『野菊の墓』を木下惠介が映画化した『野菊の如き君なりき』は、数十年後、老人となった政夫が矢切の渡し舟の上で回想するシーン…

「婚前特急」(前田弘二)中央公論2016年4月

私がこの連載で「映画音痴」を名のっているのは、私が映画の「映像で見せる技術」に鈍感だからである。映画ファンの中には、ひたすら、映像だカメラワークだ、と言う人が少なくないが、私はもうともかくシナリオなのである。シナリオが良くなければいい映画…

「ダーモンとピチアス」(カーティス・バーンハート)中央公論2016年3月

これは、日本では公開されていない映画で、テレビ放映もされたかどうか疑わしい、一九六二年のMGM映画である。ジャケットを見て、「走れメロス」? と思う人もいるかもしれないが、その通り、「走れメロス」なのである。 紀元前五世紀ころのギリシアの伝…

「結婚相談」(中平康)中央公論2016年2月

一九六〇年代前半、石坂洋次郎原作などの青春映画の中で、芦川いずみは息を呑むほど美しかった。吉永小百合はまだ十代で、妹役などをやっていた。吉永が成長すると、浜田光夫を相手役として石坂映画に出るようになるが、これは芦川主演の、円地文子の原作に…

「クロムウェル」(ケン・ヒューズ)中央公論2016年1月

大学で教えていたころ、世界史の勉強のため学生に映画を見せようとして、西洋には日本のような、歴史上の人物を中心に描いた小説や映画が少ないことに気づいた。西洋の歴史小説というのは、『レ・ミゼラブル』や『風と共に去りぬ』のように、歴史の中に架空…