バーナード・ショーの謎

 アマゾン・プライムに1938年の映画「ピグマリオン」が入っていたので観たが、イライザ役のウェンディ・ヒラーは美しくないし、なんだかモームの「人間の絆」を映画化した「痴人の愛」を思い出したのは、ヒギンズ役がレスリー・ハワードだったからだ。私は『人間の絆』が大嫌いで、この映画も途中でやめた。

 筒井康隆の昔の日記を見ると、映画「マイ・フェア・レディ」を見て、ショーの「ピグマリオン」の改悪、とこきおろしている。何が気に入らなかったんだろう、と思ったが、私の英文科の先輩で、ショーの『人と超人』を勧めてくれた女性も「マイ・フェア・レディ」が嫌いだったようで、ショーが好きな人は「マイ・フェア・レディ」が嫌いらしい。筒井がショーが好きだという証拠はないが、筒井は演劇をやっていたからショーも読んでいたのだろう。ただしこの映画「ピグマリオン」は日本では公開されていなかった。

 だが、勧められて読んだ、岩波文庫のかなり古い訳の『人と超人』は面白くなかった。バーナード・ショーは、当時の女権運動をからかいながら戯曲を書いたので、国も違い時代も違う80年代以降は、かなり読まれなくなっていた。それでも筒井や先の先輩のように面白がる人もいたのだ。

 このショーの評価の下落について誰かまとめてくれる人はいないものだろうか。

小谷野敦