さんかく(吉田恵輔)中央公論2015年2月

 小説でも映画でも、私はリアルなものが好きである。もちろんそれは、戦
争とかセックスとか殺人とかの陳腐なものではなく、人があまり描かないリ
アリティであってほしい。吉田恵輔の『さんかく』は、それをなしとげた希
有な映画である。こういう映画が『キネマ旬報』や『映画芸術』のベストテ
ンにも入らないのは、映画評論家が堕落しているからである。
 高岡蒼甫(現・奏輔)と田畑智子は同棲しているカップルである。そこへ
、田舎にいた田畑の妹(小野恵令奈)が一週間だけ訪ねてくる。妹は中学生
なのだが、かわいいと思った高岡は、この妹に惚れてしまう。そして妹が帰
省したあとも、田畑に内緒でメールのやりとりをし、一人でいい雰囲気だと
思っている。
 そのうち、田畑にあきたりなくなった高岡は、田畑とささいなことで喧嘩
し、「別れよう」と言う。すると田畑は衝撃を受け、いやだ別れたくないと
言い出す。高岡は田畑がうざくなり、とうとう引っ越すのだが、田畑はそこ
へも追いかけてくる。ストーカーになってしまうのだ。私の感触では、男の
ストーカーは一方的に思いをつのらせた結果、女のストーカーは別れ話に納
得できない時、と相場が決まっているらしいが、後者が描かれることはあま
りなく、この映画では、女のストーカーというものを実にリアルに描いてい
ると思う。引っ越した高岡に、田畑は何度も電話をかけてきて、しまいには
アパートの外で手首を切ってしまう。このあたり、田畑が美人ではないこと
でリアルさが際立っている。
 結局田畑は実家に帰るのだが、高岡のほうは、妹からのメールがぱったり
とだえ、焦る。あげく実家まで行った高岡は、単に自分が変態だと思われて
いたことを知る。
 こういう愚かさは、そのへんにいくらでも転がっているだろう。だがなぜ
かそれを再現した小説や映画は、めったに見つからないのである。高岡も田
畑も、若い者の愚かさというものをたっぷり見せてくれている。