「だれかの木琴」(東陽一)中央公論2018年10月

 先日、某週刊誌が、同誌読者が選んだ「美熟女」の中で五位になった女優Sについてのコメントを求めてきたのだが、その際、常磐貴子はいないんですかと訊いたら、はるか下七十位くらいにいたという。このアンケートでは上位にまだ三十代の壇蜜もいたし、おそらく高齢男性読者のイメージの中に、常磐貴子というのはあまりいないのだろうと思った。四十五歳になる。
 常磐貴子は「シャンプータイム」の頃から知っているが、正統的美女というわけではない。しかし時にたいへん美しく見える。井上荒野原作の「だれかの木琴」では四十歳くらいの人妻・小夜子を演じているが、息を呑むほどに美しい。
 東京郊外か、夫と息子とともに転居してきた人妻が、立ち寄った理髪店で担当してくれた理髪師・海斗(池松壮亮)のストーカーになってしまうというものだが、池松は私には別に美男には見えないのに、同年の「裏切りの街」(三浦大輔)では、寺島しのぶの人妻とセックスしてしまう役をやっていて、何か年上の女を迷わすものでもあるのだろうか。
 たまたま海斗が社交辞令的に携帯のメルアドを教えたのに、小夜子が新しく買ったベッドの写真を送ったのが手始めで、海斗が彼女(佐津川愛美)と一緒にいるのに出くわし、彼女が働いているブティックへ小夜子が赴いて、そこで衝動的にウェディングドレスのようなものを買い、夜中に海斗の家のドアへ掛けてくる。
 もっとエスカレートして「危険な情事」のようなホラーになるのかと思ったらそうでもなかった。この映画の妙な味わいは、ストーカーをするほうが美女だというところで、二十代の男が四十前後の女にストーカーされて、相手が美女だったらどんな気分なんだろう、と想像させるところがいい。
 題名はヒロインの、子供の頃町を歩いていると誰かが弾いている木琴が聞こえてきた、という特に内容と関係のない回想から来ている。常磐貴子が美しい、いい映画だと思う。