小倉千加子はレズビアンである

 嘘つきウィキペディアの「小倉千加子」の項を見たら、略歴以外何も書いていない。履歴を見たら「レズビアンであることが分かるがカムアウトしていない」とあったのが「要出典」となった上削除されていた。
 いや、レズビアンです。
 そう書いたら名誉毀損になるか。小倉はレズビアンが不名誉なことだなどとは思っていないから、ならない。ではプライバシーの侵害になるか。小倉は『セクシュアリティの心理学』でカムアウトを勧めているから、ならない。小倉がレズビアンでないとすると、人ごとだと思って安易にカムアウトを勧めるな、という批判にさらされる。また小倉は結婚を呪詛しているが、それは上野千鶴子のように、法律婚を否定しているのかというと、そうですらない(『風俗嬢意識調査』の文章を見よ)。事実婚すら否定しているとしか思えない。
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 英語のtheyを、私は一律「彼ら」と訳すのだが、世間には、もしそれが女たちであったら「彼女たち」と訳すのが正しいと思っている人がいる。
 そもそも「彼女」などというのは、明治になって、西洋語に合わせて作られた語であり、もとは男も女も「彼」である。元来が男女差別のないところへ不要な区別を持ち込んだわけで、ではtheyが男女混合だったら、これを「彼ら」とやると、男に合わせたことになってしまう。どうしてフェミニストが「彼女たち」などという訳し方を問題にしないのか、不思議だ。もっとも、sheを「彼女」と訳している以上、「彼ら」とやったのでは、男に合わせているようだと思うのだろうが、それなら「彼女」なんかやめるがいいのだ。
 theyは「彼ら」でいいのである。
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 四方田犬彦の『先生とわたし』が単行本になったので、私が指摘した箇所が直っているか確認してきた。『文化のモザイック』に英文学者が寄稿していない、というところは確かに直っていたが、駒場の英語教室の同僚は一人も、また東大英文科で正統な英文学を学んだ人は、高山宏を除いて寄稿していない、とある。前者は島田太郎、後者は富士川義之が書いている。富士川義之・英文化主任教授にして英文学会会長を務めた人が、正統な英文学者でないというのだろうか。
 あと、これは指摘しなかったのだが、1970年代に、西洋古典学の久保正彰くらいしか、非東大出身者が東大教員になった例はないという箇所だが、東大英文科教授・大橋健三郎は東北帝大の出身である。まあこれは私が自分で気づいたのではなくてさる英文学関係者から聞いたので書かなかったが、高山宏あたりが四方田さんに指摘するだろうと思っていた。
 (小谷野敦