「シン・ゴジラ」(庵野秀明)2017年8月

 「シン・ゴジラ」については、やたらいろいろな人が語っている。私のよ
うに、怪獣映画は全部観てきたというような人間からすると「ニワカがあれ
これ言いやがって」というのが本音なのだが、空気を読んでみなそういうこ
とは言わずにいる。
 この映画では、六十二年の歴史をもつゴジラが、初めて人々の前に姿を現
したことになっている。この世界にはゴジラ映画は存在しないのだ、とも言
われるが、それも八四年のリメイクの時もそうだったから二度もゴジラはリ
セットされたことになる。九三年の『ガメラ大怪獣空中決戦』でもガメラ
リセットされている。
 八四年に『ゴジラ』が復活し、『ゴジラビオランテ』以後再度シリーズ
化されたあと、製作者や評論家はみな何かにとり憑かれたように、ゴジラ
本来人類の敵なのだ、怖かったのだと言い続けた。当初そうだったゴジラ
、六四年の『三大怪獣地球最大の決戦』で、ラドンと喧嘩している時にモス
ラの説得を受けて、宇宙怪獣キングギドラと戦って退けてから「人間の味方
」になってしまう。対象は低年齢化し、顔つきは愛嬌のある、時にはブサイ
クとも言えるものになり、「シェー」をしたり、木枯し紋次郎のまねをした
り、果てはテレビの『流星人間ゾーン』にゲスト出演したりして、子供のア
イドルになってしまう。そしていったんシリーズは終わるのだが、もうこれ
は関係者からするとゴジラ黒歴史であり汚点なのだ。
 だから「ビオランテ」以後は「ゴジラVS××」という題でも、ゴジラ
悪い怪獣を倒す話ではなくなり、メカゴジラは人間がゴジラを倒すために作
られた兵器になり、あの悪玉キングギドラが、人類が改造して対ゴジラ兵器
にした(亡き中川杏奈搭乗)のみならず、もともと古代日本からゴジラと戦
うためにいた怪獣にまでされて、その分やたら弱くなった。
 だが今回、ゴジラの第二形態「蒲田くん」はかわいいと言われフィギュア
も人気で、ああゴジラ、お前はいつになっても人から愛されてしまうのだね
、などと言いたくなるのであった。