小野十三郎「黄金虫」

(前略)
息がつまりそうな退屈な自然のどこかに
何千年か昔に 
邪馬台国という国があったそうだ。
(略)
邪馬台は畿内ではなく
北九州だという説もある。
失明の悲運に会いながら
一生をかけてその場所を探しているひともいる。
しかし、そうして探そうとしているものが
王国であり「国家」であるならば
邪馬台のふるさとが
おれがいた大和の国のどこかであろうと
有明湾の沿岸だろうと
そんなことはどっちでもかまわない。
正直なところおれには関係なしだ。
「黄金虫」の詩人が
サウスカロライナ州のどこかの島の
葦と泥だけひろがっている荒漠とした土地に
一匹の甲虫と髑髏を組み合せた暗号で
その所在を示そうとした
海賊の財宝の隠し場所ほどにも。
(後略)

小野十三郎詩集 (世界の詩 66)

小野十三郎詩集 (世界の詩 66)