「もてない男」の用例

 『佐佐木幸綱歌集』(国文社、1977)の「月光の坂」冒頭に、こうある。

 歌をつくりはじめた頃、失恋の歌はうたわぬと心に決め、そう書いたりもした。万葉集以来、恋歌といえば会えない相手を、去っていった女をうたうものと相場が決っている。歌人は歌をつくるために恋をし、好んで失恋したんじゃないかと疑った。とくに明治以後は、所詮もてない男が選ぶ形式が短歌だったんじゃないかと思いたくなるほどである。敷島の道のために誰かが得恋の雄叫びの歌を! と、まあ、しばらくは痩せ我慢をした。が、『群藜』で早くも、「俺の子供が欲しいなんていってたくせに、馬鹿野郎!」一連を収めて志を屈した。おお、なんと。俺もやっぱり先進のうたびとと同類であったのか。

 なお同書では「俺の子が欲しいなんて」という見出しがある。どっちだ。