村上龍らしくない

 『半島を出よ』上巻の最後のほうで、北朝鮮人が日本の雑誌のヌードグラビアを見る場面がある。そこに「昨年ノーベル化学賞を受賞したS教授を生んだ理科系有名私立大学二年の」女が脱いだ、とある。
 日本に「理科系有名私立大」などというものはない。この小説は、村上龍らしく、朝日新聞でもNHKでも実名で出てくる。なのに、なぜありもしないものを書いたのか。
 この小説は2011年の設定だから、受章は2010年、つまり架空の出来事になる。しかし、日本でノーベル賞を受章したのは、文学賞や平和賞も含めて、すべて国立大の出身者である。一人だけ東工大がいて、あとは旧帝大である。もっとも将来、早慶の出身者がノーベル化学賞をとることがあっても、それは「理科系有名私立大学」ではない。そんなものは、ないからだ。そしてノーベル賞受賞者を出す大学の女子学生が、おっぱいぺろり写真を撮らせるなどということは、まあありえまい。村上龍らしくない書き方だと思った。