房之介さん、どうも

 『日本の有名一族』さらに訂正で、村松友視の父は、友視が幼い頃に死んだのではなく、生まれる前に死んでいる。これは生年と没年を見れば一目瞭然である。
 もう一つ、出た時に某先生から指摘されていたのだが、夏目房之介の母方の祖父は三田平凡寺という人で、房之介さんは、こちらの血を色濃くひいていると自ら語っておられるそうで、その後『公明新聞』の書評で塩沢実信氏にも指摘された。私は不明にしてその三田という人を知らなかったが、房之介さんの『不肖の孫』に書いてある。
 もっとも私には、房之介氏が長じてのち、敬遠していた漱石を読んだら、自分と同じことを考えているので驚いたというエッセイが印象に残っていて、というのはそこに描かれた漫画で、房之介さんが手にしている本が『行人』だったからである。ところが実は『行人』の後半は、典型的な不安神経症の症状を描いており、私もまたわがことのように感じたことがあり、房之介氏も恐らく神経症もちなのだろう、と思ったからである。それに三田なる人物は房之介氏によって有名になったような人なので、わざわざ書き入れないことにした。
 (小谷野敦