厄病神?

 西村寿行が死んだ。数年前、西村の『大厄病神』という文庫を書店で見つけてぎょっとしたものだが、今年になって赤川次郎も「厄病神」を題名に入れた小説を出している。正しくは、
疫病神(やくびょうがみ)
 である。「やく」という読みから逆に「厄」を想像してしまい、「疫病」は「えきびょう」と読むことも手伝って誤字になるのだろう。
 ところで、高島俊男先生が、シナ人の姓の「呂」は「りょ」と読むのが正しいのに、「ろ」と読まれる、これは20年ほど前、台湾から来た野球選手・呂明賜を「ろめいし」と読んでからのことだ、あるいは「風呂」からの連想だ、と以前書いておられたが、明治時代に豊竹呂昇(ろしょう)とか呂大夫(ろだゆう)とかいう義太夫語りがいたし、『新潮日本人名辞典』では、朝鮮の独立運動家・呂運亨を「りょ・うんこう」→「ろ・うんきょう」にしている。別に呂明賜のせいではないようだ。
 (小谷野敦