2007年から09年まで「見てハッスルきいてハッスル」というNHK教育のテレビ番組を観ていたのだが、発達障害児向けの番組だと聞いたけれど、特段そういう感じはなく、花影流忍者のあやめ(中津真莉子-現在は中津真莉)とたけちよ(毛利大亮)、月影流忍者のツバサ、アカネ、レンの男二人女一人の子供が対決する趣向だった。
中津真莉子は「フェアリーセクターテントー」に出ていた女優で、女王様的な声がよく、劇中では優秀なくノ一、対してたけちよはずっこけ忍者で、あやめがかげまるをバカにしながら戦うあたり、妙に大人の鑑賞に耐えていた。
未来から来たおばあさんあやめが、今のたけちよから、未来の俺はどうなってるの、と訊かれて「知らないほうがいいこともあるのよ」と答え、「さて早く帰らないとたけちよ爺さんが寂しがる」などと思わせぶりなことを言って去る回もあった。
番組の最後はあやめとたけちよのかけあいで、だいたいたけちよがバカにされて終わるのだが、ある時、好きなものをボードに三つ書くというお題の日の最後に、
「なあなああやめ、俺の好きなもん書いたんやけど、見てくれへん?」
と言い、あやめは女王様的に「興味ないわ」と言い、たけちよが、「まあそう言わんと」と言ってカバーを一つ一つとっていくと「あ」「や」「め」とあって、「好きや!」と言うのだがあやめが相手にしないという回があった。いいなあ。
しかしこの時の中津真莉子が、「はあ?」などと言ったりして、どうも本気でうろたえていたように見えたのだが、これは本番抜き打ちだったのではないかという気が私はしている。リハーサルではダミーを使ったのではないか。教育テレビでそんなことするはずない、と思う人がいるかもしれないが、私は教育テレビ(恐らく唯一のまともなテレビ出演)でやられている。
(小谷野敦)