フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』は、阪大でそのシナリオを授業に使っていた。映画のシナリオを読んで、つくづくこのスラングだらけのものを聴きとるのは不可能だと思ったものだが、その最後の部分、死にかけた男を天使が連れて行って、自分がいない世界を見せるという趣向は、どうやらセルマ・ラーゲルレーフの『死神の馭者』(1912)らしい。これは、除夜の鐘が鳴ったあとで死んだ者が、死神の馭者となって、死ぬ者を連れていくという伝説を使い、ダヴィッド・ホルムという飲んだくれが野垂れ死にしそうになっているところへ、一年前に死んで馭者となったゲオルクという男が連れに来て、そこから、救世軍の女士官エディットがいかにダヴィッドを救おうとしたか、といった過去が語られ、最後にダヴィッドは現世へ戻されるという話である。
 これは1921年にヴィクトル・シェーストレムが『霊魂の不滅』(邦題)として、1939年にジュリアン・デュヴィヴィエが『幻の馬車』として映画化しており、原作の翻訳もこの題で出ている。