ハイデッガーは呼び捨てする長谷川三千子

 私は村上春樹を批判しているが、かつては涙を流して感動したこともあったし、「ああ、こういうのは受けるだろうなあ」というのは分かる。分かって批判しているのである。
 それに対して、何で人気があるのか分からない、本気でどこが面白いのか分からない、というのがあって、森見登美彦はその最たるものである。これが「前衛小説」なら、まあちょっと遠巻きにするだけなのだが、別にそうでもないらしく山本周五郎賞をとっているのだが、何が面白いのか分からない。分からないものはなぜ面白くないのかは説明できなくて、むしろどこが面白いのかをまず説明してもらいたいのである。しかし純文学でもそういうことはあって、中原昌也のどこがそんなにすごいのか、分からなかった。綿矢りさなども、そのうち、どこがいいのか分からない作家になっていくのだろうか。  
 「童貞放浪記」の映画の解説で、勉強に熱心すぎて三十で童貞、とかいうのがあったが、関係ないのである。しかし、『勝手にふるえてろ』の、26で処女というのは、何しろ今現在二人の男から言い寄られていて、救いがたいブスというのではなさそうだし、となると今までどういうことがあって処女なのかという、説明がこの場合は要るのである。
 映画「飼育の部屋」を観たが、このヒロインが、何百通という年賀状を書いて、返事はビジネス関係の三通だけだったという。その理由が分からない。しかもけっこうかわいいし、性格が異常だというわけでもないのである。
 何か世間の人は、理由の要らないことに理由を探し、理由の要るところでそれを求めないらしいぞ。

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長谷川三千子先生のちくま新書を立ち見(内容的には興味なし)したら、あとがきで、河添房江先生に質問したら答えてくれたと書いてあった。そりゃあ質問したら答えてくれるだろうが、こんなところへ名前が出て右翼と間違われたらどうするんだ。あと長谷川先生は和辻哲郎を「和辻氏」と書いているのだが、ハイデッガーは呼び捨て。パルメニデスとかデカルトは、昔の人だから呼び捨てなのだろうが、ハイデッガーは和辻より長く生きているんだがねえ。やっぱり日本中心主義なのかしら。

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本の雑誌』に何とかいうおっさんが出ていて、藤村由加の『人麻呂の暗号』を出した人とかで、世間からトンデモ本呼ばわりされたと言って怒っていて、国文学者なんか朝鮮語も中国語も知らないとか無茶を言っている。中西進先生に対する誹謗中傷だぜこれは。しょせん、冒険小説と推理小説とSFの雑誌なんだなあ。