坂の上の雲

 『文藝春秋別冊 坂の上の雲』で平川祐弘先生が私の『リアリズムの擁護』を取り上げて下さっている。昔この小説が出た時に、教養学部報で平川先生が司会をして座談会をやったのを、大岡昇平や菊地昌典が非難したのを、大岡は現物を見ていないだろう、と書いた個所である。ずいぶん長々と引用されていて、別に私にからんでいるわけではない。こうやって取り上げて下さるだけで私は師の慈愛をしみじみと感じるのである。以前はこの「別冊」で北村薫さんが『里見恕s伝』に触れて下さった。
 しかし、「日本人はなぜ『坂の上の雲』が好きか」とあるが、私はあの小説は、一冊目だけ読んで放り出したのである。丸谷才一先生がおっしゃる通り、司馬遼太郎は近代を描くと失敗するのである。丸谷先生とも、どうも時々意見が一致(まあ、あちらから言えば勝手に)するのである。
 私はその辺の男性ホルモンが乏しいのか、近代戦記ものというのが苦手で、大岡昇平の『レイテ戦記』だって買ったまま読んでいない。

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ロビンソン・クルーソーの唯一の悩みは、フライデーの話をする相手がいないということだった。