斉藤佳苗の著書は、八月末に出て、割とすぐ杉並図書館にリクエストを入れたのだが、小さい出版社だったせいか、杉並区長の岸本聡子と国会議員の吉田晴美に忖度したのか、11月末になってやっと購入してくれた。
私は大きな勘違いをしていたのだが、「LGBT」というのは性的マイノリティの総称ではなく、政治思想のことであるという。これまで間違った使い方をしてきた。
「基礎知識から海外情勢まで」とあるが、なるほどかなり包括的に解説されていて、様々に眼からウロコが落ちた。バトラーの思想の解説で、カントにいたるまでの実在論とその他の思想が解説されているが、デカルトを除くと、なぜそのような思考にいたったのか、またその思想が証明されていないことに気づいて、やはり哲学というのは学問はないのではないかと思った。
あと「LGBT理解増進法」というのが、「差別禁止法」の成立を阻止するために繁内幸治という人を中心に作られたものだというのが分かったが、この繁内という人は自民党系同和団体の自由同和会の人らしく、私はかつて、同和団体なのに天皇制を認めるというこの団体の事務局長・平河秀樹を問詰したことがある。概して、アンチTRAにはこういう本物の「右翼」がいるのは困ったことである。
あと私たちがふだん目にしている李琴峰とか高井ゆと里みたいな露出しているTRAのほかに、柳沢正和とか松沢権とかいう金持ちで政府にも入り込んでいるやばいのとか、元笹川良一の日本財団も、なんでだか知らないがやばいやつらであることが分かった。最後のほうで、セルフIDになってしまったドイツを、やばい道から引き返した英国と対照させて、SNS規制法と差別禁止法が作られたら情報の伝達ができなくなるということも分かった。が、セルフIDはアルゼンチンに始まってカナダやノルウェーでもあるので、そちらの説明もしてほしかった気がする。
王寺賢太君にも読んで欲しい本である。
(小谷野敦)