ホンネとホント

 私は大学四年の時に、地元の出身中学校で二週間の教育実習をしたのだが、成績はBで、きっといい成績ではないのだろう。結局、「教育原理」を落としてしまい、朝一限に家から遠い駒場で開講されるこれを再度履修できず、教員免許はとらずじまいになった。

 その教育実習の時、最後にサッカーの試合をやるということになり、私も参加するように生徒たちから言われた。私は困りながら「私がボールを蹴ると、その行先は神様しか分からない…」と笑いながら言ったのだが、その後担当の若い女性の先生に、「小谷野先生も楽しめる試合にしたい」などと生徒が書いたのを見せられて、「私の言いたいことは分かりますね」と言われ、「はあ…」と仕方なく答えたが、「ホンネで接していい場合と…」と女性教員は言った。私は「ホンネじゃないんだ、ホントなんだ」と内心で叫んでいたが、まあそういうことが積み重なってのBであったという気がする。

小谷野敦