夏目漱石と厨川白村

 『アステイオン』に張競さんが厨川白村の伝記を連載している。これはミネルヴァ日本評伝選で予告されていたから、それになるのか、よそから出るのかは知らない。昨年の6月ころ、ふと読んでみたら、漱石が主宰する朝日文芸欄に白村が寄稿するので、漱石から白村へ「朝日文芸欄へのご同情」を謝するという手紙が引かれていた。ところが張さんは、これまで白村は朝日文芸欄に寄稿していないから漱石の勘違いだろうと書いている。だがこの手紙の一か月後に寄稿しているから、それについての漱石のお礼だろうとメールしたのだが、張さんの独特の思考で、同情という言葉の意味から言ってそれはない、と言い、半分くらい折れたのだが、両論併記したいと言っていた。途中で紅野謙介の説ですね、と張さんは言ったのだが、それは私は知らない。普通に考えて、今後寄稿するのでお礼した、というだけのことなのだが・・・。

小谷野敦