「いい子のあくび」断想

芥川賞をとった高瀬隼子の、唯一単行本になっていない「いい子のあくび」(「すばる」2020年5月)を参考のために読んだら、この作家のものとしては一番面白かった。主人公は25歳くらいの女だが、彼氏が25歳で、初めて友人の結婚式に出席すると聞いてちょっと驚く。彼女はこれまで何度も友人の結婚式に出席しているらしく、それは高校を出てすぐに結婚する大学へ行かない友人がいるからだという。

 しかし、20歳くらいで結婚するようなヤンキーが、大学へ行った主人公の友人だというのは不自然な気がした。どうもこの作者は、愛媛県の田舎から立命館大学へ行ったため、地元ではえらい大学へ行ったように思われていて、それで優越感と罪悪感を抱いているのではないかという気がした。それはこの小説の中で、彼氏がいることに優越感を抱いて罪悪感を感じるという描写があったからである。(実はその彼氏には二俣をかけられていたのだが)と同時にこの作者は恋愛強者で、裏切られることもあっても、これまで男に不自由したことがない、という感じも受けた。

小谷野敦