与謝野晶子を批判する島本久恵

島本久恵の『明治の女性たち』は、毎日出版文化賞を受賞したもので、島本としてはかなり分かりやすい文章で、誰かが直したんじゃないかと思う。

 そこに与謝野晶子「君死にたまふことなかれ」への批判があった。

「堺の街のあきびとの旧家をほこるあるじにて」では、「おなじ出征兵士の家族の中でも、もし知っていたら虫にさえる(ママ)ものが大多数で、戦争の悲惨、非人道に向かって挙げる声の以前に、国民の中のこういう差別感情こそ先ずゆるしがたく思ったであろう。旧家の跡取りも貧農の子だくさんの中の三男四男も、一個の生命の人間に変りはなく、いずれも大切な人の子である」というのだが、晶子というのはそういうところはまったく杜撰な人で、母性保護論争でも、自分ができるから他人もできると言い、恋愛結婚絶対主義でも、自分は鉄幹をずっと愛しているからほかの人もできるはずだと言う類の人で、その種の理性的精神はまったく欠如した人であった。

小谷野敦