「開き直る」の謎

もう母が死んで15年目になる。母は自己肯定感の低い人で、中卒で働きに出たせいもあったろうが、加藤諦三の『自分を嫌うな!』ななどという本を読んでいて、私はいやな感じがしたものだ。私が中学生のころ通信制の高校へ行っていて、試験の時に、答えが「西郷隆盛」であるところに「加藤諦三」と書いてしまったと自分でも言っていたくらいで、そんな母を見て育ったから、私は自己肯定感の強い人間になってしまった。

 晩年になって母はよく「いざとなったら開き直っちゃうの」などと言っていたが、私にはこの「開き直る」の意味がよくわからなかった。弁天小僧のように、詐欺を働こうとしていたらバレてしまったので居直るという意味なら分かるのだが、普通の老人主婦が何を開き直るのであろうか。辞書を引くと「急に態度を変えて厳しくなる。また、観念してふてぶてしい態度に出る。」などとあるが、それは強盗とかに入られた時のことではないかな。何だか私には、母もよく意味が分からないで、まあ失敗してもいいやみたいな感じで使っていたのではないかと思う。そういえば晩年、改めて始めたピアノの発表会で、先生が脇について弾いてくれていたが、とうてい発表会で演奏するレベルではないのを弾いていたが、あれは断るべきじゃなかったかなあ。