ある種の侮ってはいけなさ

 

 

私が阪大へ行ったのは94年4月だが、宮川先生という50歳になったばかりの少し白髪の英語の先生がいた。阪大出身の英文学者であった。9月に、博士論文として提出する予定の『自然と詩心の運動 : ワーズワスとディラン・トマス』という著書をいただいた。何げなく読んで「えっ」と思った。面白いのである。正直言って、宮川先生はいかにも凡庸な感じがして、つまり侮っていたのだが、侮ってはいけないなあと思った。ちゃんと説明してあったし、覚えてはいないのだが、言うべきことは言ってあるという感じがした。

 ヨコタ村上などは、宮川さんを嫌っていたのか、「君あれ読んだ?」と言うから「読みましたよ」と言ったら「本の蟲だな」などと暴言を吐いた。こういうものの侮ってはいけなさというのを、ヨコタ村上などは知らずに生きていくのかもしれない。

 世間には、普通の学者が普通に書いたいい本というのがあるが、そのことは知っている学者は知っていて知らない学者というのがいる。阿部公彦の詩の本など読むと、かっこいい感じがして、詩が分かった気がする。そのことがもたらす侮りには注意しないといけない。