「次郎物語」の結末

次郎物語」は、近代の古典的小説の中でも特異な位置を占めている。作者・下村湖人は文壇の人ではないし、教師をしていて50過ぎてから「次郎物語」を書き始めている。私も若いころ、偕成社の児童向け日本文学で第一巻を読んだきりになっていたが、これは最後の第五部あたりはどうなっているのかと図書館で借りてきたら、次郎は青年になって、朝倉先生という人の友愛塾というのに参加して、自由主義的な教育を受けている。朝倉先生は五・一五事件を批判したりしているが、今度は二・二六事件が起こる。ここで第五部は終わっていて、湖人はここは戦後に書いたようだが、その後は書かれずに終わっている。文藝として優れているとはあまり思えないが、作者が50過ぎてから筆をとって後世に残る作品を書いたことは、ある種の出発の遅かった作家を勇気づけるかもしれない。