杉本苑子「西鶴置きみやげ」

 杉本苑子の短篇「西鶴置きみやげ」は、『オール読物』1968年11月号発表で、同題の短編集(月刊ペン社、1971)に入っている。西鶴の半生を「代作説」で描いたものだ。西鶴俳諧師だが、『好色一代男』は死んだ妻の兄の寺内兵庫という架空の人物が書いたもので、書肆からほかにも浮世草子を書いてくれと言われるが書けずにいる。すると、色を売っている青年が、「大下馬」という浮世草子を書いているのを知る。これが北條団水で、西鶴の弟子で、「一代男」以後の作品は団水の代作ではないかと言われている。これは森銑三が打ち出した説だが、十分に立証はされていない。

 この作中の団水は、右手がなく左手も指が二本ない上、気の狂った姉と一緒に夫婦同然の生活をしている。しかしカネには困って色を売っているので、西鶴はカネをやるという約束で団水に次々と浮世草子を書かせる。

 西鶴には含という娘がいて、利発で妻がわりをしているが、この娘が、団水と一緒になりたいと言い出し、西鶴はダメだと言うが、含は入水自殺してしまい、西鶴はそのショックから寝込んで、ついに死んでしまう。

 団水の姉も自害みたいな感じで死に、団水は西鶴の遺稿として『西鶴置土産』『万の文反故』などを刊行し、自作も出して死ぬ。という筋立てである。

 割と面白かった。もっとも私は西鶴の作、特に好色ものは評価していない。