「暗夜行路」の解釈

「恋妻家宮本」という映画を観た。中学の国語教師で、もとは大学院で日本文学をやっていた阿部寛が、妻(天海祐希)の本棚の「暗夜行路」にはさんである離婚届を見つけて狼狽するという話だ。

 映画やドラマの嘘として、この『暗夜行路』は単行本になっている。しかし普通は文庫版か、志賀直哉全集か、日本文学全集・志賀直哉であろう。

 ところでこの『暗夜行路』は夫が若いころ妻に貸した小説なのだが、その際「好きな女と結婚できなかった男の話だ」と言うから驚いた。それは祖父の妾のお栄のことか。一般的に『暗夜行路』はそういう話だとは思われていない。結婚した妻が従兄と過ちを犯してしまい、時任謙作が苦悩して妻に暴力を振るう小説だが、それが、好きな女と結婚できなかったうっぷん晴らしだというのだろうか。

 原作は重松清の『ファミレス』だったから、図書館で借りてきて見てみたら、その箇所は『暗夜行路』ではなく、アン・タイラーの小説だった。とすると、『暗夜行路』にしたのは監督・脚本の遊川和彦の意向で、『暗夜行路』をこのようにとらえているのは遊川だということになる。