「トンネル 闇に鎖された男」(キム・ソンフン)中央公論2018年7月

 韓国はある種厄介な国だ。私などは文学の人間だから、他国への関心の持
ち方は、だいたい文学から入るのだが、韓国には今もってこれという文学がな
い。ノーベル賞候補とされる詩人・高銀がいるが、他言語の詩は入りにくく、
やはり小説がほしい。その一方、韓流と呼ばれるほどメロドラマは盛んでフ
ァンもいるが、私には入りこみにくい。だが、映画だけは着実に進化しつつあ
る。一時期勢いのあったキム・ギドクが最近精彩を欠いているが、「トンネ
ル」などは、もっと評価されてもいい作品ではないかと思った。
 韓国のある自動車用トンネルが突然崩壊し、運転していた男(ハ・ジョン
ウ)が閉じ込められてしまうという事故もので、男は携帯電話で閉じ込めら
れたことを知らせ、救出作業が始まる。男の妻を演じているのがペ・ドゥナ
ある。
 男はたまたまその前に立ち寄ったガソリンスタンドで水のペットボトルを
もらっており、子供に買ったケーキがあったが、食料はそれだけ、救出には
上部から穴を掘り、一週間ほどかかる見込みである。そのうち男は、自分の
近くに別の遭難者女性がいることに気づくが、その女性が飼っている犬にケ
ーキを食われてしまう。そして救出隊の計算が間違っており、掘った穴は男
からは遠かった。
 ケレン味のない、正攻法の映画で、好感が持てる。救出隊長の人柄も、妻
の描写も真っ向勝負である。しかしトンネル崩落の原因は手抜き工事で、し
かも男の救出のために近くでの別のトンネル工事が止まっており、男の携帯
の電池は切れ、もうどうせ死んでいるから救出作業はやめろという声があが
る。妻は納得しないが、ここで救出隊長ががんばる。
 まじめに撮られた映画だが、トンネル崩落などというのは、韓国の恥部と
もいえるので、批評家はあまり評価したがらないのかもしれない。まじめに
撮った映画というと「新幹線大爆破」などを想起するが、それに比べても地
味である。だが、恥部というより、韓国がんばれと言いたくなる佳作である。