「ネタバレ」ということがうるさく言われるようになって十年ほどであろ
うか。私の若いころももちろん、推理小説の犯人は読んでいない人に教えて
はいけない、ということはあったが、さほど厳しい話ではなかったし、読ん
でいる最中の人に言うのと、まだ着手もしていない人に言うのとでは違うだ
ろう。
やはり「ネタバレ」忌避感覚が増進したのは、映画「シックス・センス」
以来だろう。まああれのネタばらしを観ていない人ないしこれから観ようと
している人にするのはひどい。
だがその後、推理小説評論家などを中心とした「ネタバレ討伐隊」の鼻息
はだんだんヴォルテージがあがり、一般に純文学とされる小説についても、
書評でネタばらしをしたと批判されたり、ホームズもの「まだらの紐」につ
いてもネタバレはいかんと言われたり、どうもうるさくなってきた。『出版ニ
ュース』で佐久間文子が、過剰なネタバレ批判はどういうものか、と書いて
いたことがあるが、同感である。
たとえば推理小説で「叙述トリック」と言われるものがあるが、中には「こ
れは叙述トリックものだ」と言うこと自体がネタばらしだと言う人もいる。
逆に、さる文庫版の推理小説の解説に、間違ったことが書いてある、と言う人
がいたので見てみたら、ネタバレしないようにわざと間違えたのだという例
もあった。私も一度、アマゾンレビューで、ネタバレしないように書いたら、
「これではどういう話か分からない。まだ読んでいない人に向けて書くもの
でしょう」という苦情コメントがついて苦笑したこともあった。
「今度は愛妻家」は私の好きな映画である。豊川悦司と薬師丸ひろ子が夫
婦役である。トヨエツはテレビ関係のそれなりの実力者で、ご多分に漏れず
女関係も多く、妻を悩ませている。水川あさみも出ていて、いい味を出して
いる。だがこの映画についてこれ以上言うとネタバレになってしまう。とい
うか、こういう書き方をすること自体ネタバレの恐れがあるのである。しか
し、私はこれはいい映画だと思う。