松本清張「春の血」と「再春」

 

中野のお父さんは謎を解くか

中野のお父さんは謎を解くか

 

 

 

隠花の飾り (新潮文庫)

隠花の飾り (新潮文庫)

 

 

 

延命の負債 (角川文庫)

延命の負債 (角川文庫)

 

 

北村薫さんが『オール読物』に連載している「中野のお父さん」シリーズの単行本二冊目『中野のお父さんは謎を解くか』をいただいた。これには北村さんお得意の文学史ネタが入っていて、泉鏡花徳田秋聲を火鉢を飛び越えて殴ったのは本当かというのも収められている。 知らなかった話もあった。松本清張の「再春」(1979)で、地方で小説を書いて新人賞を貰った人妻が、知人から聞いた話をもとに書いた「再春」を発表したら、トーマス・マンの「欺かれた女」と同じネタだと文藝評論家に論難される話である。
 実は清張自身が、1958年に書いた「春の血」でこれをやられており、「再春」の中には「春の血」がそのまま引用されている。
 ここまでは知られていた話だが、では誰がトーマス・マンの「剽窃」だと言ったのか、というところが北村さんの推理で、これは荒正人であった。
  なお「春の血」は、別に封印はされておらず、『延命の負債』(角川文庫)に入っている。だいたいマンの短編にしてからが、最後まで読まなくてもネタが割れる。