大阪大学名誉教授(美学)上倉庸敬(1949年- )の唯一の単著『フランス美学 涙の谷を越えて』(創文社、2009)のあとがきには、無気味なことが書いてある。これは2007年阪大学位論文がもとだとして、
その論文自体、同僚だった大橋良介教授(・・・)が、ご自分のご退職まえに申請させて審査してやろうと、一年もまえに、学生諸君の手を借りて、わたくしの知らないうちに、旧稿をあつめ、まとめてくれたものであった。「フトコロに手を突っ込むようなマネをして申し訳ないけど」と、大橋さんがコピーの束を目のまえに置いてくださったとき、過分なことと心から感謝したが、同時に、おぞましいものを見た気もした。おぞましくもあったが、ありがたかった」
若いもんがせっせと博士論文を書いている間に、こやつは博士号もなし、単著もなしで教授を務め、ようやくまとめたのが240ページ程度のこの小冊子だけだったのか。しかも他人が、学生の手を借りてやってくれたというのだから呆れる。
阪大美学科は、61歳の准教授と55歳の准教授がいて、前者は著作・共著・翻訳いっさいなし、後者もそれに同じで、業績がなくて教授にできないのだと思われる。なんちゅうところだ。テニュア制を早急に導入すべしである。
(小谷野敦)