20世紀後半から書かれ始めて、次第に増えている、純文学におけるある長篇小説の書き方というのがあって、それは多数の固有名詞、または普通名詞だが固有名詞的な、薬、兵器、家具、身の回り品の名称をやたらと放り込んである小説である。
 最初にそういう小説を書いたのはナボコフであろうが、その先蹤としてドス=パソスなどがいる。メルヴィルの『モービィ・ディック』も、それなりに百科事典的小説だが、そう話は散らばっていない。
 マジック・リアリズムなどで多用される手法だが、これらは「筋」はあってもそれらの名詞の間に埋没している。どうも私はこの手の小説は苦手で、ページを開いて、その類だと分かるとげんなりしてしまうのだが、どういうもんであろうか。
 なんだかこれらは、筋だけだと通俗小説になってしまうので、名詞投入や羅列によって純文学ぽく見せかけているという気がしてならない。