山川方夫の「軍国歌謡集」という短編がある。男が下宿している前を、軍歌を歌いながら通る娘がいるという話だが、これは広津和郎『風雨強かるべし』の半パクリである。全集三巻の解説にはそのことは書いてない。新潮文庫『海岸公園』に入っているがこれにも書いてない。
娘は夜道が怖いので軍歌を歌うのだが、ある晩、男ががらりと窓をあけてその女の顔を見る。娘は恥ずかしがって逃げだし、男を憎むが、これがツンデレでそのあと仲良くなるという話で、ほぼ広津のをそのまま使い、ただし山川はもう一人の友人を入れて話を複雑にしている。
しかも広津のほうは、娘が「空の神兵」を歌っているところで窓をガラリ、とやるのだが、山川のほうは、娘が最後に「空の神兵」を歌って通るところでエンドになっている。
(以上は私の勘違い。「軍国歌謡集」は1975年3月に「落下傘の青春」としてNHKで単発ドラマ化され、当時小学生から中学生になるところだった私がそれを観て、あとで調べてその年1月にNHKで放送された「風雨強かるべし」と混同したもの。「空の神兵」は1942年、戦争中にパレンバン降下作戦を題材に作られた軍歌なので、「風雨強かるべし」が書かれた1933年には存在しない。)