http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100503
 勝又浩の件で、車谷長吉についても疑問があるのだがそれはここに書いておいた。しかし和解には秘密条項つきというのがあって、和解のうちこれこれについては明かしてはいけないということになっている。それでどっちも説明できずにいるのだろうから、文筆業者は秘密条項が重要な部分に及ぶ和解をしてはいけないと私は思う。
 ところでこの勝又-西村賢太対談で、筒井康隆が嫌いという点で二人の意見が一致している。西村のほうは、ある文学賞の選評で悪口を書かれたと言い、読んでもいないし読む気もないと言い、勝又は、筒井が日本文学を悪くしたのだと極言している。これは『群像』2015年4月号の「創作合評」で筒井の「メタ・パラの七・五人」がとりあげられた際にも問題になり、筒井の作品は根底に私小説的なものもあるのに勝又はそれを見落としているとして長嶋有山城むつみに批判され、田中和生がこれを文藝時評でとりあげている。
 私も勝又が間違っていると思うし、そういうことを言うのであれば、筒井を純文学世界に引き入れたのは大江健三郎なのだから、勝又は大江にも触れなければいけないはずだが、この対談では触れていない。もともと、「奇妙な仕事」の「私大生」にひどくこだわったのが勝又で、勝又はよほど東大嫌いらしい。
 さて、西村が悪口を言われたというのは、「どうで死ぬ身の一踊り」が三島賞の候補になった2006年のことで、この時選評で筒井は、ここで西村が入れあげている藤澤清造の『根津権現裏』を読んでみたがこれはひどかった、とし、西村の作品は面白く、もっと読んでみたいと思うが、それは文学的興味からではない、と書いた。この年の三島賞古川日出男に決まったのだが、いしいしんじの「ポーの話」や宮崎誉子、前田司郎らがいて、高樹のぶ子宮本輝は西村に触れず、福田和也島田雅彦はあまり西村を評価していないという、今日から見たらずいぶん変な事態になっている。
 私は「どうで死ぬ身の一踊り」は、三島賞芥川賞をダブル受賞してもいいくらいの作だと思っているから、へえという気がするが、筒井は藤澤清造を読むところから始めたのはまずかっただろう。西村は推理小説も好きだというし、ぜひ筒井の傑作『ロートレック荘事件』を読んでほしいと思う。
小谷野敦