谷崎潤一郎の恋文』を読んでいたら、松子との出会いのきっかけとなった改造社の大阪での講演会が、1927年2月27日とあり、あれっと思った。28日だと思っていたからで、『芥川龍之介全集』の年表でもそうなっている。千葉先生に確認したら芥川全集のが間違いで、新聞で確認したそうである。これは里見にもあかかわるので修正しておく。 
 しかし松子と「千福」で会ったのと、ダンスホールへ行ったのがどういう流れなのか、いまだ判然としない。三月一日に谷崎夫妻、佐藤春夫夫妻、芥川で、弁天座で人形浄瑠璃を観て、その日の夜は谷崎と芥川が千福という旅館へ行っている。谷崎千代は岡本へ、佐藤夫妻は東京へ帰ったということかと思うが、そもそもこの千福のおかみが、芥川のファンである根津松子が会いたがっていると言ったのである。とすると、大阪駅へタクシーを走らせる中で、やはり会って行こうと谷崎が芥川を口説いて引き返したというのはこの時か。松子は夫の清太郎が文句を言ったので出るのが遅れて六時過ぎに千福についたという。人形浄瑠璃が終わったのは午後五時くらいで、すると谷崎千代と佐藤夫妻はどうなったか。