誰もが絶賛は気持ち悪い。

石原慎太郎を読んでみた』はもちろん栗原さんから恵贈された。朝日新聞佐々木敦の書評も出て、アマゾンでも読書メーターでも、絶賛されている。これはまずい。「批判禁止」の雰囲気がある小説、ということを田中弥生が『文學界』の「新人小説月評」で書いていたが、この本もその雰囲気が出てきた。
 この本をみなが褒めるのは、『ウルトラマン研究序説』のケースと似ている。「面白がらなくちゃいけない雰囲気」がある、ということである。ウルトラマンは、まじめな学者がまじめにウルトラマンを研究したということで、『石原慎太郎を読んでみた』は、石原嫌いの豊崎由美が、いざ作品を読んでみたら意外にいい点をつけたという逆転の面白さで、である。
 だが、「大笑いしながら読んだ」と言う人がいくたりかいるが、私は全然大笑いしなかった。概して、コンセプト的に、豊崎が石原作品を意外にも褒めた、というところがミソなので、実はほめ過ぎである。石原の初期の作品は、私も『化石の森』とか『亀裂』とか読んだが、妙に冗長だし、当時は、大江健三郎の一人勝ちになるのに対抗して、石原を褒める人もいたのである。後期になると、『わが人生の時の時』とか『弟』などの私小説が割と面白くなる。ただ福田和也のはほめ過ぎである。
 あとこれは昔からのことだが、豊崎は、褒めるにしてもまず嗤っておいてから褒める。時にはただ嗤う。私は文学を笑いながら論じるというのが許容できない。「メッタ切り」もそうだし、斎藤美奈子もそれがある。それと、この本には、一ページ分のコラムがあって、それを豊崎が書いているのだが、芥川賞選考委員としての石原を、徹底的に貶したものだ。私は、石原は芥川賞選考委員としてかなりいい仕事をしたと思っており、これには賛同できない。福島次郎の「バスタオル」を、石原と宮本輝だけが推したという一点だけとっても、石原が単純な同性愛差別者でないことは明らかで、藤野千夜については、「同性愛でなければただのつまらん小説だろう」と言った(のが少し言葉がすべった)だけである。
 あと石原が、天皇制をさほど重んじていないことを豊崎、栗原ともに理解していない。あの人はたぶんゴーリスト。